実行委員長ご挨拶

一歩半先を行くJES 2012:医療を変える次世代デバイスと明日から役立つ高難度手術満載のライブ26例

すっかり晩夏の風物詩となったライブサージャリーを中心としたJESを今年も開催できることを嬉しく思います。腹部大動脈瘤用ステントグラフトが保険適応になって5年、頸動脈ステントと胸部大動脈瘤用ステントグラフトが保険適応になって4年が経過し、血管内治療の裾野は著しく広がりました。それに伴いJESに参加される皆様の経験値も上がり、また目が肥えて参りました。JESの使命・目的はこうした日本における血管内治療のレベルと共に変わります。第1回JESを開催した2006年当時は保険適応となっている大動脈ステントグラフトや浅大腿動脈用のステント、また頸動脈ステントなどがまだ保険適応となる前でした。従いましてこの頃は、解剖学的にシンプルな大動脈瘤や浅大腿動脈の狭窄病変、頸動脈の通常のステント術などを供覧するだけでもJESの意義はあったものと思われます。しかし、血管内治療の普及と全国的なレベルアップとともに参加者のみなさんのJESに期待する内容も自ずと向上してきました。それに合わせて、単に保険適応となっている通常のデバイスで通常の患者を治療するというライブから、難易度の高い手術また血管内治療の次のステージを予感させるような新しいデバイスの供覧を心がけるようになりました。

こうしたことを念頭に今年のJESのプログラムを構成致しました。すなわち新しいデバイスにおきましては、局所麻酔下に経皮的に大動脈瘤治療を可能とする12Frシース相当のステントグラフトXやTX2LPなど現在国際共同治験を進行中のデバイスの供覧や高度に屈曲した大動脈瘤や腸骨動脈にしなやかにフィットするAorfix(日本初)などのステントグラフトの供覧です。また今月7日に待望の薬事承認を取得し、まもなく全国一斉販売される弓部大動脈にもぴったりフィットするTX2 ProFormも供覧します。ProFormの承認は多くの胸部大動脈瘤患者にとってたいへんな朗報です。また、究極のプロテクションデバイスとの評判のGoreのFlow reversalシステムによる頸動脈ステント術も見逃せません。閉塞性動脈硬化症に対する世界初の薬剤溶出ステントであるZilver PTXと血管内バイパスの異名をもつViabahnを用いたTASC C/Dの治療も中継します。

このように、今年のJESも例年どおり目玉ライブがたくさんありますが特筆すべきは世界初ライブとなる胸腹部大動脈瘤に対する枝付きステントグラフトです。慈恵医大ではこれまで約60例の枝付きステントグラフト術を施行しましたが技術と器具の進歩により最近は手術時間4時間を切るようになりました。こうした実績と毎年のみなさんからのアンケート調査に後押しされて、いよいよ枝付きステントグラフトの登場です。こうした次世代デバイスのライブを通じて「JESは血管内治療の将来を見通すCrystal ball」を体験していただきたいです。

新デバイスではありませんが既存デバイスを駆使したアドバンスド治療として弓部大動脈瘤に対するchimneyテクニックを恐らくライブ手術としては世界初供覧します。これは慈恵医大で過去約2年間で40例の弓部大動脈瘤に対するchimneyテクニックを施行した結果、脳梗塞はわずか1例で死亡例はなかったという実績に基づいて可能となりました。近い将来、弓部大動脈瘤に対する標準治療となる事を感じ取っていただきたいと思います。腹部大動脈瘤に対する既存製品を用いた上級編として、傍腎動脈型腹部大動脈瘤に対するExcluderと腎動脈ステントを用いたsnorkel術を供覧します。

こうしたまだ見ぬデバイス、まだ普及していない新しいテクニックの供覧に加えて、既に保険適応となってはいるものの上市されて間もなく、皆さまがまだそれほどお使いになっていない優れもののステントグラフトであるEndurantやValiant胸部ステントグラフトなども供覧します。携帯電話同様、新しい物ほど優れていると言うことがステントグラフトにも当てはまるか否かをご覧いただきたいです。重症虚血肢の治療は多くの場合準緊急的な処置を必要と致しますので、今の段階からJESのプログラムに待機的に予定を立てることは困難ですが、JESの直前に適切な重症下肢虚血肢患者が現れた場合にはそれも是非供覧したいと思います。このように第7回JESでも新しいデバイスの紹介とより難易度の高いテクニックを中心にプログラムを構成しました。また、JESは従来は私のワンマンショーでしたが、今年はライブ症例の約半数を上級者となった慈恵医大血管外科スタッフに任せますので、大木ライブと一味違った彼らのパフォーマンスからも何かを感じ取り、学んでいただきたいです。

JESを通じてより安全により広く、血管内治療が我が国に普及することを願っておりますが、活発な討議があってこそのライブサージャリーですので、今年もより多くの皆さまからのご意見を募りながら手術を進めたいです。そのために、今回は新しい試みとして、会場でスマートフォンなどからE-Mailで手術室に直接質問なりコメントを送れるシステムを導入します。このシステムがJESを更に活発かつ有意義なものとしてくれるものと期待しております。

JES2012では26例のライブ手術を生中継します。手術はどれも水ものであり、きちんと時間通りに進まないこともあるでしょうから皆さまのご協力をいただかなければならないこともあるかと思いますが、どうかご協力の程よろしくお願い致します。またJESの恒例の学会特典グッズですが、今年もエコバッグやJESうちわに加えて品薄でレアものである3色フリクションペンをベースにしたJESペンを用意しました。

日本心臓血管外科学会のライブサージェリーガイドラインではライブでは高難度手術ではなく当該施設で日常的に施行している症例を選択すべきと定めています。以上のように今回のプログラムでは一般的には難易度が高いと考えられている手術が多数予定されていますが、これらはいずれも慈恵医大では日常的に行っており、かつ極めて安定した成績が得られている手術である事をご理解ください。JESでは、こうした点も含めガイドラインを遵守したライブ運営を心がけます。

JESは今年で第7回目となりますが、歴史的使命を終えたと感じたことや、多忙などの理由から途中で何度もやめようと思いました。しかし、参加者は毎年増加し、昨年はついに延べ1,000名を初めて突破してしまいました。また、毎年行っている参加者対象のアンケートで、JESに対する満足度調査では全ての回答で大満足あるいは満足評価が得られ、さらに、次年も参加するか否かの調査では一人も「来年は参加しない」と回答しなかったという事実などに励まされ今回の第7回目を迎える運びとなりました。慈恵医大血管外科のスタッフ18名で一生懸命準備してまいりました。参加して下さったより多くの皆様が今年もJESに参加して良かったと思っていただけるような会となることを、一同心より願っております。

JES2012 実行委員会 実行委員長
(高知県龍馬・観光特使)
大 木 隆 生
東京慈恵会医科大学 外科学講座
統括責任者・血管外科教授