第2回 JES2007のライブ症例のその後

JES2007では20例の血管インターベンションを行いました。多くの症例の治療はうまく行きましたが、そうでなかったのもありました。また、当初はうまくいったように思えていた症例の中には、その後の経過観察中に症状が再発した症例や、追加治療が必要となり、必ずしも成功したとは言えないケースもありました。

ライブサージェリーのガイドラインに従い昨年の症例と一年後の経過を報告します。

症例1、2は、間歇性跛行症例です。左外腸骨動脈に対しては保険適応もあり、また治療成績も確立しているLuminexx stentを留置しました。また、左浅大腿動脈にびまん性の狭窄がありました。浅大腿動脈のびまん性の狭窄(TASC C)に対するintervention治療は議論の分かれるところです。PTAのみですと、血管解離や、elastic recoilの問題がありますし、ステントを留置した場合には適応外治療になる上、再狭窄の問題もあります。そこで、Atherectomy カテーテルを用いて治療しました。塞栓症が心配でしたので、Spiderフィルターを下肢に留置して行いました。外腸骨動脈のステント術もAtherectomyも無事執り行われました。1年後にCTAを撮りましたが、外腸骨動脈のステントもAtherectomyを試行した部位も良好に開存しております。特に、Atherectomyの部位は術直後よりも内腔が広がっており、いわゆるpositive remodelingがみられております。日本ではAtherectomyは使用できず、慈恵では個人輸入ベースで使用しておりますが、早急にこうしたデバイスが使用できるようになることが望まれます。

症例1,2

症例3は、脾動脈瘤に対するコイル塞栓術です。術後瘤径の拡大などを認めず、1年経ちました現在も具合は良好です。

症例4は、両側腎動脈狭窄症の症例です。術前より両下肢のむくみと、狭心発作を起こしておりましたが、術直後からいずれも改善しました。本態性高血圧があり、降圧剤の使用量に変化はありません。

症例5および6は、同じ患者です。右浅大腿動脈の限局性の狭窄(TASC A)に対して、PTAを行いました。PTAにて動脈解離もなく、良い反応が得られましたのでステント留置をせず手術を終了しました。術前0.7でしたABIが、1年経ちました現在も0.89と良好ですし、間歇性跛行症状も消失しております。開存性はCTAとDUSでも確認されております。安易にSFAにステントを挿入すべきではないということを改めて教えてくれた症例です。手技6は、同患者の腎動脈狭窄に対するステント術です。術後1年後の超音波あるいはCTAで見ましても再狭窄を認めておりません。

症例7は、胸部下行大動脈瘤に対するTAGによるステントグラフト術ですが、1年経ちました現在も、ステントのずれなどなく経過良好です。

症例7,8

症例9、10は、腎動脈狭窄症疑いと大きな腹部大動脈瘤(8.5cm)症例で、問題症例でした。腎動脈狭窄症は術中造影にて認められませんでしたので、執り行いませんでした。術後6ヶ月目CTで中枢側と末梢側のtype I endoleakが認められ、また瘤径も9.2cmへと増大しましたので追加治療を行いました。いずれの部位にも、extra largeのパルマッツステントを留置することにより、endoleakの治療を成し遂げることができました。その後の経過は良好で、Endoleakも消失しました。屈曲の強い動脈瘤に対するステント術の難しさと、術後の厳密な画像診断による経過観察の重要性を改めて教えてくれました。

症例9,10

症例11、12は、遠位弓部の嚢状瘤と腹部大動脈瘤の嚢状瘤の症例です。破裂リスクを考慮し一期的にTAGとExcluderにより治療を行いましたが、対麻痺などの合併症もなく、術後1年経ちました現在も経過良好です。いずれの動脈瘤も縮小傾向にあり、ステントのmigration等も認めておりません。

症例11,12

症例13は、右内頚動脈の高度狭窄症例です。当時は、まだAngioguardとPRECISE stentが保険適応となっていなかったために、Acculink stentとAccunet フィルターを用いました。術後1年経ちました現在も、脳梗塞あるいは再狭窄などは認めず経過良好です。

症例13

症例14は、右浅大腿動脈狭窄症症例です。TASC Bの狭窄病変に対してPTAを行いましたが、acute recoilが認められたために、SMART stentを1本だけ留置しました。術後1年経ちました現在も、再狭窄は認められず経過良好です。TASC A・Bに対するintervention治療の有効性が再確認できた症例です。

症例14

症状15は、左内頚動脈の高度狭窄症例です。本症例に対しましては、未だに日本未認可のSpider filterで脳を保護しつつWallstentを留置しました。術後1年経ちました現在も再狭窄などは認めず、また術前にありました眼症状も消失しており経過良好です。

症例15

症例16は、両側総腸骨動脈瘤を伴った大きな腹部大動脈瘤症例です。左内腸骨動脈のコイル塞栓術を行いました。術後1ヶ月程は左臀筋性跛行が認められましたが、現在は完全に消失しております。動脈瘤も完全に空置されており、endoleak等は認めておりません。

症例16

症例17は、シンプルな腹部大動脈瘤に対するZenithを用いた症例です。慈恵医大におけるfollow up率はほぼ100%ですが、この症例は珍しくその後消息不明となっております。但し術前術後の血管造影所見などから、動脈瘤に関しましては恐らく問題ないことと推察されます。どこかでお元気に過ごされていることでしょう。

症例17

症例18は、医療関係者でした。「パパ歩くのが遅い」と娘さんに言われたことをきっかけに治療に前向きになられた患者です。腹部大動脈遠位端に高度狭窄を認めました。偏心性の狭窄であり、retrogradeによるワイヤーの通過が困難であることが予想されたために、上肢からもワイヤーを挿入した症例です。型の如くkissing stentを行いました。術後1年経ちました現在、間歇性跛行や再狭窄などなく娘さんと楽しく過ごされているとのことです。

症例18

最後の症例19は難症例です。右下肢の重症虚血肢でした。右外腸骨動脈のCTOに対して様々なカテーテルやワイヤーを用いて再開通を試みましたが、上手く行きませんでした。バイパス術という優れた選択肢もありましたので、あまり深追いせずにintervention治療を中断した時点でJES2007は終了しました。2日後に硬膜外麻酔下に大腿-大腿動脈バイパス術と左大腿-膝窩動脈バイパス術を執り行いました。同時に右足のデブリードマンを行いました。術後、右下肢の傷はきれいに治癒し、また左下肢の間歇性跛行も消失しました。1年経ちました現在も経過良好です。外科的オプション(バイパス術)がある患者におきましては、intervention治療に固執すべきでないことを再認識させられました。

症例19, 20

新しい医療分野である血管インターベンションの領域では、手術治療とのすみわけが定まっていないもの、未完成の医療器具や手技がまだたくさんあります。また、血管インターベンションはその低侵襲故に、急性期の治療成績はとても良好ですが、長期の成績はいまだに外科手術に及ばないものがいくつもあります。我々の成功や失敗からより多くのものを学んでいただき、明日からの治療に役立てていただければ幸いです。JES研究会は、よりよい血管病治療を目指す医師を応援しています。

Japan Endovascular Symposium研究会 実行委員長
東京慈恵会医科大学 外科学講座 統括責任者・教授
アルバートアインシュタイン医科大学 外科学 教授
大 木 隆 生