実行委員長ご挨拶

第9回 Japan Endovascular Symposium ーJESは血管治療の未来を知るクリスタルボールー

大木隆生

Japan Endovascular Symposium(JES)は2006年から皆さまの声に支えられて8年間連続して開催してまいりました。そしてその運営においては、日本心臓血管外科学会のライブサージェエリーガイドラインを遵守し適切な運営を行ってまいりましたが2012年の第7回JESにおいて死亡事例が起きてしまいました。この事実を厳粛に受け止め、学内調査委員会と3学会による調査委員会が立ち上がりましたが、翌2013年JESまでに結論が出なかったことから第8回JES2013ではライブを中止しビデオライブ中心の会とせざるを得ませんでした。ライブサージェリーとビデオ供覧、それぞれに一長一短がありますが、ビデオの長所は何かを考えた結果、ライブではめったに遭遇・供覧できない失敗症例・死亡症例を皆で持ち寄ってその経験や反省点を共有することである、という結論に達し昨年は「死亡症例・反省症例供覧会」としました。ライブの無いJESで果たして参加者が集うのか?という懸念は終わってみれば杞憂で、JES2013にはJES史上最多に迫る約1,000名の皆さんが参加してくださり、慈恵医大の反省症例に加えて全国から集まった多数の「タラレバ」症例を皆で検証し、共有することができました。毎年恒例の参加者アンケート調査でも、ほとんどの回答者から「有意義だった」とのありがたい声が寄せられました。一方、大多数から「来年こそライブサージェリーを復活させてほしい」という要望・期待も寄せられました。

さて、今年の第9回JESでライブを復活できるか否かに関してですが、幸い上記いずれの事例調査委員会でも本質的な問題は指摘されませんでした。一方、約1年半前から3学会によるライブサージェリーガイドラインの改定作業が始まりましたが、慈恵医大医療安全部と学内倫理委員会は、新ガイドラインが策定・公表されるまではJESでのライブサージェリーを行うべきではないと判断しました。我々は皆さんのご要望にお応えすべくギリギリまでこのガイドラインの公表を待ちましたが、JESまで3か月を切った2014年6月19日まで、新ガイドラインは公表(制定日6月12日)されませんでした。ライブサージェリーを行うには症例ごとに学内倫理委員会での審議・承認を得なくてはなりませんし、ガイドラインに則った適切な症例の集積もしなくてはなりません。いずれも一朝一夕にはできないことですし、時間がない中、無理にライブサージェリーを強行することは得策ではないと判断し、今年もライブのないJESとせざるを得ませんでした。

従いまして、今年のJESでは昨年同様、苦慮した症例・成功症例を募集し、示唆に富む21演題を発表していただきます。それに加えて例年のJES参加者アンケートで、希望が多数あったPAD(特にCTO)、弓部大動脈瘤と胸腹部大動脈瘤に対するステントグラフト術、大動脈瘤人工血管置換術、CEA、CLI Distal bypass術などのビデオライブをご覧頂けるようにいたします。刻々と変化する状況に術者がどのように対応するか、また参加者とディスカッションしながら最善の治療法を模索するなどの利点を有するライブサージェリーはありませんが、ビデオ供覧で様々な血管病治療のコツや落とし穴をじっくり勉強できるJESにしたいと考えています。また、近年問題となっている「不適切で安易なPAD治療」のシンポジウムを開催し各科の代表者らとこの問題を検討し、今後の血管病治療の健全化を図りたいと考えています。

この場を借りて、ご協力いただく多くのファカルティーの皆様に感謝するとともに、第9回JESにも、より多くの皆さんが参加してくださり、より多くの皆さんが有意義だったと感じてくださる事を願っています。

JES2014 実行委員会 実行委員長
大 木 隆 生
東京慈恵会医科大学 外科学講座
統括責任者・血管外科教授
(高知県観光特使)