実行委員長よりご挨拶

第6回Japan Endovascular Symposium(JES2011)開催にあたって さらに先を行くJES:銀座静脈瘤レーザーセンターからのライブ中継と今年も数多くある本邦初手術

第1回JESを開催した2006年はまだ薬事承認を得たステントグラフトさえありませんでしたので、単純な腹部大動脈瘤ステントグラフト術を供覧するだけでも有意義だったと思います。腎動脈ステントも頸動脈ステントも脳保護デバイスについても同様でした。しかし、現在、本邦の過半数の胸部、腹部大動脈瘤がステントグラフトにて治療されており、参加者の目も肥えてきましたので、それに合わせてJESの内容も充実させました。思えばJESは毎年こうやって日本の大多数の血管外科医、インターベンショナリストのレベルを見据えながらプログラム構成と症例・デバイス選択をしてきました。我々は頸動脈ステント、大動脈瘤ステントグラフトなどの指導医として全国の病院にしばしば出向いておりますし、郵送された患者情報を元に治療アドバイスをしたり、また診療面では全国から手術不能、ステント不能と言われた患者を受け入れ治療していますので、全国の血管治療のレベルをかなり正確に把握できていると自負しています。今年でJESは第6回目を迎え、ステントグラフトは保険適応後4年目を迎えます。寄せられる質問や、治療を依頼される患者の中にステントグラフト後の中期合併症症例が増えてきました。すなわちステントグラフトの脚閉塞、migrationやEndoleak症例です。こうした背景を元に、今年のJESではステントグラフト留置後の2次処置を一つのテーマとしました。典型的なType I、II、III endoleak症例を4症例予定しています。中でも本邦初公開となるのがType II endoleak に対する経腰的大動脈瘤穿刺(Trans-Lumbar Access)によるコイル塞栓術です。日本ではこのTLAを施行する施設がほとんど無いようですが、欧米ではこの方法がType II endoleakに対する標準治療となっております。本法にはいくつかの落とし穴がありますので是非ご覧になり参考にしていただきたいです。また、全てのType II endoleakがTLAの対象になる訳ではありませんので、こうした症例に対する経大腿動脈的、経SMA-IMA的アプローチによるマイクロカテーテルを用いたコイル塞栓術も症例選択の基準などと共に供覧します。さらに、遠位弓部大動脈瘤ステントグラフトのmigrationによるType I endoleak出現も多くの皆さんが今後遭遇するであろう合併症ですのでプログラムにいれました。Endoleakシリーズの最後に、おまけとして、4年前に慈恵で治療した手術不能・切迫破裂の胸腹部大動脈瘤に対する枝付きステントグラフトの腹腔動脈とステントグラフトを橋渡ししたカバードステント(枝)に生じたType III endoleak症例の追加カバードステント術を供覧します。

さて、今年のJESでは全く新しい試みをします。それは、今年、銀座に開設した「銀座静脈瘤センター」(www.ginza-7th.jp)から下肢静脈瘤に対する日帰りレーザー治療と1mmの創で瘤切を可能にした大木式瘤切鉗子を用いた手術のライブ中継です。銀座静脈瘤センター設立の狙いをご紹介します。私が米国Albert Einstein医科大学外科教授職を投げ打って帰国した理由は、逆風にさらされていた母校と人離れが進んでいた外科学講座のテコ入れ、日本人患者の治療にあたりたい事など幾つかありましたが、それらに加えて心臓の片手間ではなく真剣に血管病治療を目指す医師を育成し、不憫な境遇にあった我が国の血管外科医を取り巻く環境を改善する事も目標の一つでした。血管外科医の育成に関しては慈恵医大で多くの血管外科医を厳しく指導していますし、ほぼ隔月で外部の医師を対象にした講習会を開催しておりますしJESもその延長線上にあります。血管外科は現在慈恵医大の診療科別売上でも常時トップ3にランクされており、また学術面でも学会発表、論文執筆を積極的に進めています。固定型透視装置のあるハイブリッド手術室も2つありますし、研究費もふんだんにあります。このように慈恵医大では血管外科医が弱小診療科の悲哀を感じることなく堂々と診療できます。現在慈恵では23名が血管外科を専攻していますが、慈恵医大は他の大学病院同様、医局員に十分な給与を支払っていませんので、皆、週一日のアルバイトで生計を立てています。すなわち、血管外科診療・研究の充実、インフラ整備をしただけでは血管外科を完全に底上げした事になりません。私生活に直結するバイト環境も改善しなくてはなりません。そのバイトに際して、例えば消化器外科医であればバイト先の病院で内視鏡をしたり、胆石、虫垂炎などの手術をしたりと、その専門性を活かした仕事が出来ますので、仕事が有意義である上に日当も割高です。心臓外科医なら循環器内科外来が出来るでしょう。乳線外科医なら乳がん検診や読影のバイトがあります。それに対して、大学では華やかな生活を送っている血管外科医も、ことバイトとなると、血管外科医として雇ってくれるバイト先があまり無いために内科検診のような専門性が活かせない、外科医にとってつまらない、比較的日当の低いバイトしかなく、血管外科の先輩として心を痛めておりました。そこで血管外科医局員がその専門性を活かせ、その知識と技術に応じた正当な日当が得られるバイト先を創設しなくてはならないと考えました。幸い、私の志に賛同してくださった慈恵の外科の先輩が静脈瘤センターを開設してくださると申し出てくださりました。また、ちょうどその頃、(株)資生堂が本社ビルを新たに建設する際に私にテナントとして入ってほしいとの依頼がありましたので、銀座中央通に面した新・資生堂パーラービル内に銀座7丁目クリニックを開設する事になりました。レーザー静脈瘤治療に関しては、私は2002年ころから米国でたくさんの経験がありましたので医局員に比べて一日の長がありましたので、スタッフの手術指導をはじめクリニックの運営、広報・メディア活動、人寄せパンダなどを行う銀座静脈瘤センターのボランティア顧問に就きました。開業してまだ3か月ですが、手術レベルは高いレベルで安定しました。私財を投げ打って始めたプロジェクトですが、最近テレビを含む幾つかのメディアに当センターが紹介され、患者も増え、何より最高の治療を提供することによる患者満足度が高いですので、赤字は最小限に抑えられる見込みで安堵しています。“血管外科医は食わねど高楊枝”では困りますので、この血管外科医のアルバイト創設プロジェクトがうまくいけば、他の大学も我々を模倣して静脈瘤センターを立ち上げ、血管外科医を側面支援していただきたいと願っています。銀座からの静脈瘤レーザー治療のライブ中継には、こうした想いがある事を是非知っていただきたいと思います。なお、銀座静脈瘤センターの創設により血管外科医の専門性を活かせるバイト先が最大10名分確保できたわけですが、毎年新入医局員が約20名を3年連続達成した慈恵医大の外科学講座では医局員が250名に達し、従って外科学講座としてもバイト不足に直面していましたので、外科学講座学全体の運営という視点でも朗報なのです。

新しいデバイスや手術としては、日本初のEndurantステントグラフト、日本初のTX2ステントグラフトProForm(弓部にぴったりフィット)、東日本初のZenith Spiral-Zステントグラフト(屈曲腸骨でもなめらかフィット)、昨年のJES以来1年ぶり日本第2例目のViabahn血管内FPバイパス(今年中に日本での治験を開始予定)、C-TAG、傷3cmと世界最小の頸動脈内膜剥離術などのライブ中継をし、「JESは血管内治療の未来を知るクリスタルボール」という数あるJESの一つの使命を果たしたいと思います。特に注目に値するのがEndurantステントグラフトでしょう。欧米で上市と同時にZenith、Excluderをおさえ、瞬く間にマーケットシェアトップに躍り出た優れ物の実力を皆さんにお見せしたいです。

JESの運営に関してですが、去年までは2日間の会期中の20数例に及ぶ症例を全例、私が治療していましたが、今年は私が帰国して6年目のJESです。血管外科スタッフも手術室スタッフも質疑応答しながらよどみなく手術が出来るほどに成長しましたし、例年行うJESアンケートでは若手の成長ぶりを楽しみにしている参加者が多くいますので、平成14年卒以上のスタッフ全員に実力に応じた担当ライブ症例を割り振りました。ライブを行う術者は金岡祐司石田厚戸谷直樹立原啓正作久田斉平山茂樹黒澤弘二田中克典太田裕貴墨誠前田剛志金子健二郎です。興味深い、示唆に富む症例と共に、若手の成長ぶりもご覧いただけたら幸いです。また、アメニティー担当の太田裕貴医師と神谷美和さんが今年も「捨てられないアメニティー、貰ってよかったアメニティー」を多数用意しました。JESうちわはTPOをわきまえたナイスアメニティーといえます。学会ペンはこれまでで最高の物ができました。書き味が日本一の呼び名高いJETSTREAMペンに、昨年太田が作った大木マスコットをオプショナルでつけられるペンです。オプショナルですので、大木マスコットを使用しない方は、ゴミ箱に捨てるのでなく受付にある「大木マスコット返却箱」にそっと入れていただければ幸いです。エコバックもより使いやすい、高級なものへとグレードアップしました。昨年の第5回JESでは755名の皆様に参加していただいたお蔭で会はとても実りあるものになりました。慈恵医大の会場は全ての席にマイク(電源ソケットも)が設置してありますので着席したまま質問やコメントが出来ます。今年のJESを前回よりも有意義なものにするためにも皆さんのフランクなご発言をお待ちしております。今年は例年以上に欲張って、JES史上最多の28例の示唆に富む、皆さんの明日からの診療に役立つであろう症例を予定しています。毎年そうであるように、これらの中には予定通り運ばない手術もある事でしょうが、そんな時は皆さんと考えながら患者にとってベストの治療を模索したいと思います。

今年もJESでは「胸部・心臓血管外科ライブ手術ガイドライン」を遵守しながら、本会を運営します。その一環として、症例検討タイムを設け、昨年の症例の経過報告集も作成しましたので是非ご一読頂ければ幸いです。どの症例も順調な経過で嬉しく思います。特にコントロール不良の腎血管性高血圧のために運動が禁止されていた17歳の女子高校生の腎動脈慢性閉塞病変に対するステント術は印象深いです。昨年のJES後、全ての降圧薬が不要となり、待ちに待った部活を再開できたと本人も家族もとても喜んでいます。腎動脈のCTO突破は難しく、予定の倍以上のライブタイムを使ってしまった上に術中大動脈穿孔を起こした際は多くのコメンテーター等から撤退すべきと指摘されましたが、術後1年目検診の際の彼女の笑顔を見た時、頑張って完遂して良かったと心から思いました。辛抱強くお付き合いいただいた皆さんに感謝します。昨年の第5回JESまでに通算112例のライブ手術を行いましたが、死亡例はなく術中合併症も初年度の頸動脈ステントの術中に生じた網膜梗塞の一例に限られています。毎年こうして全例を振り返っていますが、第5回JES は症例の内容、手技、出来栄え、会場の皆さんとのやり取り、のいずれをとっても満足できるJESとなりました。第6回JES では皆さんのご協力を得ながら一層、質が高く、教育的で安全なライブにしたいと願っています。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学びます。新しい分野である血管インターベンションの領域では未完成の医療器具や手技がまだたくさんあります。我々の成功や失敗からより多くのものを学んでいただき、明日からの治療に役立てていただければ幸いです。今年も、一人でも多くの方に日本の夏の風物詩になりつつあるJESに「来て良かった、勉強になった」と言ってもらえることを、慈恵医大血管外科スタッフ、JES事務局長 神谷美和、藤井律子率いる運営(株)N.Practice、教映社一同が願っております。

大木隆生 Japan Endovascular Symposium研究会 
実行委員長 大 木 隆 生 
(銀座静脈瘤センター ボランティア顧問)